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死刑執行のこと

 死刑が執行されたとニュースが取り上げていた。思うに、制度に根本的な問題があるのではないか。

 初めに述べておくと、死刑制度について、私は賛同しない。死刑は何も解決しないし、抑止効果もなく、それに冤罪問題もある。キリスト教的に言えば、本人の悔い改めは重要な課題であるのだが、その可能性も閉じてしまうものだ。だから、死刑制度ではない別の手段を構築すべきだと思う。ただ、現状としては日本には死刑制度があり、各種意識調査を見る限りでは、死刑制度そのものがすぐに廃止される可能性は低い。だとすれば、死刑制度が存在することを前提として、その執行に関して適切な対処が必要だと考える。

 死刑に処するかどうかの判決は、もちろん裁判所が下す。当然である。そこでの判断ミスの有無や是非は、今は取り上げない。ともかく、裁判所は託された権限に基づいて、かつ、高度な技能と慎重な検討を踏まえて、死刑判決を下す。とすれば、制度の筋道から言えば、判決が下ったからには執行するのが自然なことだ。刑務所にという判決が確定したら、その場で身柄は拘束されるはずで、そのうちいつか、入ってもらいましょう、というような扱いはあり得ない。

 だが現状は、裁判所として最終的な決定がなされても、死刑が執行されるかどうかは、まったく不明だ。つまり、法務大臣が執行命令を出さなければ、死刑囚としてとらえられたまま、である。この仕組みが、死刑執行のニュースが取り沙汰される原因になっている。多くの場合は、執行したということで話題になっているのだが、逆の可能性もある。つまり、その死刑囚に対して法務大臣が個人的な思いがあれば、死刑は執行しないという選択肢がありえる。死刑だと決まっているのに、実際にはそうはしない、という扱いが可能である。それこそ、忖度でもすれば、だ。刑務所か、あるいは罰金刑に置き換えれば、これがおかしいのはすぐにわかる。法務大臣の知り合いが交通事故を起こして罰金刑か、あるいは刑務所にと判決が決まったのに、法務大臣が承認しないのでそのまま放置、などということはあってはならないことだ。

 以前、ある法務大臣は、この論理を持ち出して、だから自分は粛々と執行するのだと言って、次々に執行命令を出していた。制度的には論理性がある。ただし、その大臣でも、その時点で死刑が確定していた人すべてについて執行したわけではないから、恣意的であったことには変わりがないが。

 とは言え、判決が確定したから、それなら何日後に、とか、そういう制度にするのは無謀である。大臣などの意図は介入しなくなるが、でも、死刑というものをそんなふうに機械的に扱って良いのかという課題もあるし、また、それぞれの状況、事情というものがあって、それを考慮すべき場合は多々ある。その点ではやはり、罰金とか刑務所とは違う重みがある。冤罪問題や再審請求のことなどは、他の場合はまだしも対応が可能だが、死刑は執行してしまえば後戻りはできない。だから、機械的な扱いは無理だ。

 とすれば、死刑執行に関しての判断をする、正式な機関を設ける必要があると、私は思う。法務大臣ではだめだ。法務大臣は必ずしも法律の専門家ではないし、卓越した判断力を有しているかどうかもわからない。それに、政治家は政治的な判断をする存在であって、こういう判断は不偏不党であるべきである。法務省の人々でも足りない。ここはやはり、裁判官にこそ、その判断を仰ぐべきだと考える。裁判所が下した死刑判決である。それなら、その執行がいつなのか、今が適切なのかどうかの判断もまた、裁判所が下すべきだ。専従である必要はないだろうが、全国から妥当なチームを選んでおいて、独立した機関としての判断を託す。法務大臣がすべきことは、その機関が執行を決定したら、そのまま実行するということだけ。反対に、その機関が執行を決めなければ、誰もそれに介入することはできない、とすべきだ。

 もちろん、人のなすこと、人の制度にはいつでも限界があって、これですべてがうまくいくわけではない。でも、少なくとも今のように、裁判所の決定がないがしろにされる可能性は排除され、あるいは、一時的に法務大臣になっているだけの人々の恣意的な、時には気分的な対応に振り回されることをも排除できる。政治家としてのパフォーマンスになど利用される可能性は、厳しく排除せねばならない。再審請求中の扱いも、冷静な対応がなされえるだろうと、少なくとも現状よりは期待できる。

 最初に書いたように、私は死刑制度には賛同していない。でも、現状としてそれがあるならば、そして日本の社会がそれを肯定しているのならば、せめても適切になされていかねばなるまいと、そう思う。

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