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「使徒パウロは何を・・・」 1

 NTライトの「使徒パウロは何を語ったのか」が、この春に翻訳出版されたので、感想を書き留めてみる。

 この人は日本のいわゆる福音派の中で話題となっているのだが(どの程度かはわからない。無視している人は何も言わないだろうから、関心のある人の声が大きいだけかもしれないが)、そういう話に触れ始めた頃から、私は違和感を覚え続けている。この違和感の正体は何だろうか、と探り当てたくて、その書を読んでみたり、また、こうしてあれこれ書いてみたりしている。

 違和感と述べたが、一概にキリスト教とは言っても、様々な立場で語られている見解があることは承知している。いわゆる教派的な違いは、この信仰理解の豊かさに資するものと考えているので、決して否定的に見る必要はないと思っている。キリスト教理解の根幹部分、つまり聖書観とか、神の超越性に関する理解などの食い違いは、教派的な相違よりも深刻だと思っているが、それだけに異質性は明らかであって、違和感というのには当たらない。

 ちなみに、私自身はいわゆる福音派と言われる、ようするに、初めの頃からの伝統的な理解、信仰を受け継ぐ姿勢を大事に考えているつもりだ。聖書は神が与えてくださったご自身の言葉であって、どこかの時点で人間たちが考案したものだとは考えていないし、あるいは、生きて働いておられる神との関わりこそが信仰の核心であって、人間自身の人生理念などの一つとは別の話であると、そのように確信しているつもりだ。

 こういった大前提的なところでの違いがもともと明らかである場合には、必要であれば議論するが、あるいは、そういった違いを認識しつつ、それらの見解もまた参考に読むこともある。まあ、ぐちぐちと不満を口にしながらのことも多いけれど。ともかく、それは違和感とは別の話だ。

 違和感という言葉を持ち出したのは、一見、伝統的なキリスト教の理解に即しているように見えていて、けれど、何かが違う、それが必ずしも明確ではない、という場合に関することだ。それでNTライトのことを取り沙汰しているのは、この人物の主張が、いわゆる福音派とされる中で好意的に受け止められている様子が見えるからだ。もっとも、本人が自身を福音派に立つと言っているわけではなさそうだ。この本を読む限りでは、むしろ、そんな必要性は全く意識せず、むしろ、全く別の立ち位置から、彼の確信するキリスト教理念を提示しているのだろうとは思う。で、その内容は、後述するように、伝統的なキリスト教の理解とは大きく異なっているはずだ。違う、という前提で違うことを語っているNTライト自身については、それは各自の自由であって、見解に対する賛否はあるとしても、違和感の話にはならない。でも、そういう異なった前提での見解が、あたかも伝統的キリスト教理解の再提起のようにして受け止められている(ように見える)ことについて、私としてはどうにも違和感を覚える。

 であるので、こうして彼の本をいくつか読んでみて、それが同じ前提に立っての再提起、あるいは刷新であるのか、それともやはり違う前提に立っている見解なのかを探ってみる必要があると、私はそう思っている。幸いにも、前回読んだ「クリスチャンとは何か」よりも、より踏み込んだ形で、この本はNTライトの立ち位置、前提を明らかに示してくれているようで、大いに参考になったし、いろいろ考えさせられる手がかりになったとは思っている。では、次回以降、この人の見解の前提と、伝統的なキリスト教信仰の前提との違いを(少なくとも私がそのように感じることを)いくつか挙げてみたいと思う。

 日本のキリスト教界について、前々からの懸念としては、自分たちが従来大事に持ってきたものとは異質なものが出てきても、それに対してあまり懐疑的にならず、綿密な検証もなく、だから、従来からの大きな方向転換であるような場合にも、そのことをほとんど意識せずに受け止めていくというようなことがなされ得ている点を思っている。変更をすべて否定するつもりはない。宗教改革だって、大きな方向転換だ。必要であればすればいい。だが、その場合には必ず、従来のどこが違っていて、何を変革しようとしているのかを明確にし、そして、自分たちは従来とは違う立場に進もうとしているのだという覚悟と表明を明確にすべきだと、私は思う。

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