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「使徒パウロは・・・」 6

 NTライトの語ることには、ユダヤ教への強い意識があると思われる。

 これはNPP全体に特徴的ともされるが、新約時代のユダヤ教について、従来のキリスト教は誤解してきたという認識が提示されていることは、よく知られている。行いによる業績主義といった考え方は持っていなかったのだと指摘して、だとすれば、従来のパウロ理解、それこそ信仰義認とされる箇所の理解は間違っていたという主張だ。

 当時のユダヤ人の状態が真実なところどうだったのか、という点で、NPPの主張には疑義がある、という指摘もなされているようだが、私自身はそのあたりを調べてはいないので、何とも言いがたい。ただ、功績によらず、恵みによってこそ、という教えは、新約全体、あるいは旧約も含めて、全体として問い続けられているテーマであって、一部の箇所の解釈が左右される程度のことで捨てられるようなものではないとは思う。まして、宗教改革期のルターたちの思惑が発端ということはない。また、もしも彼らの言うように当時のユダヤ人が律法主義・功績主義ではなかったのだとしたら、では、イエスはいったい何を問題視し、あれだけ激しく叱責なさったのか、そのことの中身を見出していかなければ、聖書の語るところを見過ごしたまま、になってしまう。この本の中で、NTライトは、パウロが当時のユダヤ人に対して問い質した内容についても言及しているが、その程度のことだとしたら、あれほど激しく対立することにはならなかっただろうに、と私は思う。

 それにしても、NTライトはユダヤ人、あるいはユダヤ教について、かなり肯定的である。それがパウロ理解から来ているのか、それともユダヤ教への思いがパウロ理解の転換を導いたのかはわからないが、相当に肯定的である。だが、その扱い方には疑問がある。

 まず、当時のユダヤ人社会が抱いていた神への信仰を肯定的に見るのであれば、それは「ユダヤ教」ではなくて、「旧約聖書の信仰」としてこそ提示すべきものだと私は考える。NTライトはパウロがユダヤ教の前提に忠実であり続け、その結果としてこそイエスを救い主として確信できたのだというふうに見ているが、そのような論理展開をするのであれば、そこで掲げられるべきはユダヤ教ではなくて、あくまでも旧約が提示している信仰、でなくてはならないはずだ。理由は単純である。ユダヤ人社会は、真に神の啓示に従ったことなどないからだ。旧約はそのことをずっと語り続けている。パウロが参照し、あるいは啓発され得るようなものは、ユダヤ社会には存在し得なかった。ユダヤ、であることから離れて、旧約において神ご自身が提示されていることに従おうとしたときに初めて、人は神の真実を見出すための手がかりを得ることができている。だから、NTライトがユダヤ教という言葉を用いるたびに、私は強い違和感を覚える。それはイエスご自身の語られていた姿勢と、ずいぶん違うことを思うからだ。

 それに、気になる言い方も出ていた。神はイスラエル人によって成し遂げようとした御業が、イスラエル人が背いたことによって頓挫したので、真のイスラエルであるイエスによってその御業を完成させた、というような説明の仕方だ。これは奇妙だ。イスラエルが神から大切な使命を与えられていたことはもちろんであるし、彼らがそれに失敗したのもそのとおりである。だが、彼らが担っていた使命と、神の御子でありキリストであるイエスが果たして使命とは、全く別のものだ。イスラエルは世に対して神の祝福を届ける役割を持っている。いわばクリスチャンたちの使命と同類である。だがイエスは、人々の贖いと救いのために取り組む使命を果たされている。それはイエスのみが可能なことで、イスラエルにはできないし、クリスチャンにもできない。どれほど熱心でも、どれほど性格に神の心を理解し、実践したとしても、何一つ罪がなかったと仮定しても、それは全く別の話である。あるいは、ユダヤ人の使命をパウロと重ね合わせてもいい。ユダヤ人の失敗をパウロが挽回したという言い方ならば、そういう見方も可能かもしれないとは言える。だが、キリストご自身によって、という扱いは、全く受け止められない。

 NTライトは、ユダヤ人を過大評価しているように思えてならない。

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