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憲法改正のこと

 憲法記念日もあったことだし、このテーマを少し考えてみた。

 現行憲法に基づく社会が営まれて、すでに70年を越している。明治憲法が行使されたのは60年に満たないし、最後のほうは軍部との関係があるから、近代以降の日本にとって、最も安定して用いられたのは現憲法ということになる。一部が声高に主張しているように現憲法が本質的な欠陥があるというのは、今の私たちが暮らしている日本社会のあり方全体を否定する主張ということになる。そういう主張をするのは自由であるが(日本はどのような政治主張も自由である)、少なくともそれは保守ではなく、革新、それも、革命的な意味合いも含むような動きとして認知されるべきものだとは思う。いわゆる保守勢力が憲法改正に好意的だとするならば、その人々にとって憲法の改正はさほど重要な課題ではない、と見なされているのとの表れでもあるだろう。ようするに、憲法を変えても社会は何も変わりはしない、と考えているということだ。ごく常識的に言えば、何も変わらないのであれば、あえて労力を費やして変える必要性はないのだが。

 私自身は、昨今の流れを勘案するならば、変更しなくて良いだろうと考えているけれど、それはむろん、現行憲法を完全だと見なしているから、ではない。9条のことはさておくとしても、様々に曖昧な部分はあるし、それが課題を残している場合もある。たとえば天皇制についても、現天皇が退位に関する意思表示をした際に示したような天皇論が憲法的観点から妥当かどうかも、今の条文では何とも言いがたい。積極的に肯定したい人々にとっては憲法上の根拠は希薄に過ぎるし、天皇の発信を封じ込めたい人々にとってもその根拠となり得るような文面は存在しない。皇室に関しては、しばしば、基本的人権の有無が話題になるが(結婚もその一つだが)、そのあたりも漠然としたままであるのは、昨今の論議の中でも明らかになっているものとも思う。ただまあ、そのあたりについてどういう方向性で行くのかの論議は全くなされていないので、改正をと言っている人々も、素通りしてさわろうとしていないのが現状だろう。

 憲法の規定が漠然としている部分で、昨今の状況からして課題に思えるのは、憲法がこの国の統治機構にとって最も根幹となる規範であることが、実効性に乏しい、たとえば、違反に関する罰則規定の類が何もない、というあたりである。たとえば、政府や公務員については、憲法に違反した行為を自らの公的権力を用いてなした場合には罷免される、というような規定があっても悪くはないはずだ。憲法とは異なる主義主張も自由ではあるし、その実現のために取り組む人がいても、それは自由である。ただし、公的な立場に就いている間はそれを封印するべきであるのは、今の憲法の趣旨と条項からして当然のことである。そして、戦後からずっと、権力側に立つ人々において、そのあたりは慎重に保たれてきたようにも思う。むろん議論が生ずることはあったけれど、そして、時には詭弁とされるような論議もあったかもしれないが、少なくとも本人たちは自らが憲法に深く依拠しつつその職務を行っているとの認識を抱き続けていたように思われる。だが、昨今はそういう枠が外れてしまったようで、憲法に何が書いてあるかではなく、その時々の政府が何をしたいかで推し進めれば良いのだという理解が横行しているように思う。国民が選挙で選んで成立した政府なのだから、ということであるが。その選挙自体の課題はさておくとしても、この観念は憲法という存在には真っ向から抵触するものである。もし、選挙で選ばれれば何をしても良いのだとしたら、あるいは国民投票などで合意されれば何でも良いのだとしたら、はじめから憲法など存在する必要性がなくなってしまうだろう。

 この点は、憲法を持つ国のあり方としては非常に重要な点であり、だから、もし、何かの改正をすべきと言うのであれば、それはまず、公務員や政府における憲法への遵守の徹底を実現するようなものこそが必要だろうと考える。おそらく、そんなことは当然だったから、設立時、あるいはその後も、この点はほとんど問題にされてこなかったのだろうと思う。国会が国権の最高機関であるということすらも曖昧化している現状で、憲法の改正を問うのだとするならば、ここから始めるのがふさわしいのではないか。

 考えてみると、政府や内閣総理大臣が憲法の変更を主張するというのは、大きな逸脱である。発議権は内閣にはなく、あくまでも国会である。国会がそういう決定をし、国民がそれに合意するその時までは、内閣・政府は今現在の憲法に固執した政治を行うべきであり、その義務がある。日本中が変更される内容に沸き立っていたとしても、政府だけは以前のままの施政を継続している必要がある。そういう覚悟がない者たちは、政府に所属する資格はなく、一国会議員として、あるいは市居において、自らの主義主張を唱えるべきだろう。

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